UFCへの一極集中が進む格闘技界。日本人選手も世界標準への対応急ぐ。
2012年、日本のMMA(総合格闘技)は“メジャーなき時代”を迎えた。
昨年大晦日以来、唯一のメジャーイベントだったDREAMは活動休止状態となる。
経営母体だったFEG(K-1も運営していたが、今春破産)と離れ、昨年大晦日にはアントニオ猪木率いるIGFと合同イベントを行なったDREAMだが、資金の目処がつかなかったこともあり今年に入ってからは一度も大会を開催できなかった。
エースであるライト級王者の青木真也は、試合の機会を求め7月にシンガポールのONE FCと契約している。
■人気、ビッグマネー、成功のすべてはUFCにあり。
現在、MMAのメジャーがあるのはアメリカである。
2月にはさいたまスーパーアリーナで開催された久々の日本大会が大成功。観客の熱狂は、UFCが単なる“海の向こうの出来事”ではないことの証明だった。
UFCは今年、マカオでも大会を開催、来年3月の日本大会もアナウンスされており、アジアマーケット進出はさらに本格化する。
世界最大のMMA団体UFCを目指す日本人選手は多い。
かつて、DEEPや修斗で名を上げた選手が目指すのはPRIDE、HERO'SでありDREAMだったが、いま彼らが目指すのはUFCなのだ。人気、ビッグマネー、やりがいのある強敵。UFCにはすべてがある。
後楽園ホールとラスベガスのMGMグランドやマンダレイ・ベイが直結する時代。
しかし最高峰の舞台での闘いは決して楽なものではない。対戦相手のレベルは高く、ましてアウェーでの試合。ケージ(金網の試合場)ではリングとは違うテクニックが必要になる。日本では戦極、DREAMのトップ戦線で活躍した小見川道大ですら、結果を出せずにリリース(契約解除)されてしまった。
■国内最多の興行数を誇るDEEP佐伯代表のしたたかさ。
そんな状況を打破するための動きが活発化したのも、2012年の特徴だといえるだろう。
年間22回(他、キックの大会が4回)、日本最多の興行数を誇るDEEPは、東京はもちろん地方でもケージ大会を開催。来年はさらにその数を増やすという。
DEEPの佐伯繁代表がスーパーバイザーを務める女子総合イベントJEWELSも、12月に初のケージ大会を行なった。JEWELSはアメリカの女子団体インヴィクタFCと提携して選手を派遣、またUFCにも女子部門ができることから、今後は女子のトップ選手もアメリカに目を向けることになりそうだ。
ケージ大会の増加には、アメリカ志向の選手を金網の中での闘いに慣れさせておくという意味がある。
かつて佐伯は「ケージの試合は興行の“風景”を変えて目新しさを出すため。大事なのは自分たちの興行であって、アメリカの基準に従う必要はないですよ」と語っていたが、UFC日本大会で“DEEP出身”の選手が闘う姿を見て、少し考えを変えたようだ。
「今の時代、アメリカに行きたいという選手を止めることはできない。といって、行けば誰でも勝てるというわけじゃない。僕は選手に『まずはウチで勝ちなさい。チャンピオンになって、1回防衛したら送り出してあげる。そのくらいの力がないと、アメリカに行っても通用しないよ』と伝えてますね」
■国内のファイターが大同団結し、アメリカ進出に懸ける。
12月24日には、総合格闘技の老舗・修斗の興行会社であるサステインが実行委員会を組織する形でケージイベント『VTJ』を開催。来年以降も定期化していくという。坂本一弘サステイン代表が語ったその目的は明確だ。
「アメリカで勝てる日本人選手を育てる。UFCのチャンピオンを日本から輩出する。VTJはそのための大会です」
さらにパンクラスも“世界標準”というスローガンのもと、練習も含めた選手の海外派遣を強化していく方針を打ち出した。大沢ケンジの和術慧舟會HEARTS、長南亮のTRIBE TOKYO MMAなど、アメリカの技術トレンドや練習方法を取り入れたジムは多い。
■日本唯一のメジャーDREAMが大晦日にようやく活動再開。
金網を設置するジムも増えている。
TRIBE TOKYO MMAのプロ練習には国内の強豪が数多く参加、同階級のライバルと目される選手同士が顔を合わせることもあるが、長南は「それを気にしてはいられない」と言う。
「実際に対戦が決まったら練習場所を変えればいいこと。大事なのは国内の序列じゃなく、日本人みんなで強くなることなんです。目標はあくまでアメリカですから」
多くの選手、関係者がアメリカを意識し、ケージでいかに勝つかを考えることが、2012年には当たり前のことになった。そんな中、日本唯一のメジャーであるDREAMが、大晦日にようやく活動を再開する。
年に一度のUFC日本大会だけでなく、定期的に大舞台の高揚感を求めるファンは多いはず。メジャー=アメリカとなった今、“日本のメジャー”が果たすべき役割は何か。
ファンにどんな闘いを提供し、日本のMMAシーンはどう変化するのか。2013年に向けての動きが、大晦日から始まることになる。
(「濃度・オブ・ザ・リング」橋本宗洋 = 文)【関連記事】 UFCの頂点を目指すため、ケージファイトでVTJが復活。~12・24代々木で金網マッチ開催~(12/12/23) たとえ地味でも無名でも。これが新K-1の生きる道。~初の日本大会で示した指針~(12/10/30) UFC常連も門戸を叩く格闘技ジムで長南亮が思い描く、米国制圧の野望。(12/09/10) FEG破産から新生K-1誕生まで──。一体「K-1」で何が起きているのか!?(12/06/01) 【言わせろ!ナンバー】UFC日本大会は、日本格闘技界“復活”の起爆剤となるか?
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